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13月/170

A list of review articles about hibernation, daily torpor and hypometabolism / 冬眠・休眠・能動的低代謝のレビュー論文リスト /

Posted by genshiro

冬眠・休眠・能動的低代謝に興味のある方にオススメしたいレビュー論文をまとめました。最後の動画は本文とは関係ありませんが、うちのラボで撮影したマウスです。休眠と睡眠の違いを端的に表していると思うのでアップしました。ではでは〜。

Carey, H. V, Andrews, M.T., Martin, S.L., 2003. Mammalian hibernation: cellular and molecular responses to depressed metabolism and low temperature. Physiol. Rev. 83, 1153–81. doi:10.1152/physrev.00008.2003

Geiser, F., 2004. Metabolic rate and body temperature reduction during hibernation and daily torpor. Annu. Rev. Physiol. 66, 239–74. doi:10.1146/annurev.physiol.66.032102.115105

Heldmaier, G., Ortmann, S., Elvert, R., 2004. Natural hypometabolism during hibernation and daily torpor in mammals. Respir. Physiol. Neurobiol. 141, 317–329. doi:10.1016/j.resp.2004.03.014

Andrews, M.T., 2007. Advances in molecular biology of hibernation in mammals. BioEssays 29, 431–440. doi:10.1002/bies.20560

Ruf, T., Arnold, W., 2008. Effects of polyunsaturated fatty acids on hibernation and torpor: a review and hypothesis. Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 294, R1044-52. doi:10.1152/ajpregu.00688.2007

Melvin, R.G.R.R.G., Andrews, M.T.M., 2009. Torpor induction in mammals: recent discoveries fueling new ideas. Trends Endocrinol. Metab. 20, 490–498. doi:10.1016/j.tem.2009.09.005

Bouma, H.R., Verhaag, E.M., Otis, J.P., Heldmaier, G., Swoap, S.J., Strijkstra, A.M., Henning, R.H., Carey, H. V., 2012. Induction of torpor: Mimicking natural metabolic suppression for biomedical applications. J. Cell. Physiol. 227, 1–17. doi:10.1002/jcp.22850

Dirkes, M.C., Gulik, T.M. Van, Heger, M., 2015. The physiology of artificial hibernation. J. Clin. Transl. Res. 2, 78–93.

 A torpid mouse

 

A sleeping mouse

1511月/160

休眠論文がでました。

Posted by genshiro

自分にとって冬眠関連の論文として1報目となる論文が発表されました。
Sunagawa, G.A., Takahashi M, 2016.
Hypometabolism during Daily Torpor in Mice is Dominated by Reduction in the Sensitivity of the Thermoregulatory System.
Sci. Rep., 2016, doi: 10.1038/srep37011
論文のリンク
理研のプレスリリース

今回の論文の生物学的な発見やそのために行った開発については日本語プレスリリースや論文を見ていただくといいかと思います。ここでは、そこに書ききれなかった、僕自身がどんな思いで研究をすすめたか2点ほど書き留めておこうと思います。

1. オスの休眠パターンがおもしろい

今までの多くの休眠論文はマウスのメスを実験対象としてきました。メスのほうが安定した低代謝を示すからです。一方で睡眠研究を行っていた自分はメスには性周期があり、3〜4日に1回の頻度で過活動(睡眠時間が減る)が生じることを知っていたたので、個体間のバラツキを減らしたいと考えて、迷わずにオスを用いました。その結果、1個体内では時間的にとても短い期間しか休眠は検出できなかったのですが、個体間のバラツキはメスよりも減ったのではないかと思います(→メスは現在測定中)。いずれ場所を変えて性差についての議論もしたいのですが、それよりも僕の興味をひきつけたのは、オスの体温パターンの変動です。図の最上段は近交系Aのメスの休眠パターンです。絶食の後半にずどんと体温が20度台に落ちている部分が休眠です。一方で同じ近交系Aのオスの休眠は様相が全く違います(2段目)。波打ちながら体温が落ちています。発振しているように見えます。さらに、他の近交系BやCでもオスは同様のパターンが見られます。なんとかして、この振動の意味を突き止められないか、と思っております。これは興味だけではなく、この振動の応じて生体内の代謝制御機構の「何か」が振動している可能性があり、能動的低代謝の制御のために有用な情報だと思われるからです。どんな数理モデルを用いればよいのか、アドバイス募集中です。

Torporの雌雄差について

休眠の性差について

2. 解析をベイス統計モデルで行った

2015年4月に高橋研に入ラボしてから本格的にベイス統計モデルの勉強をはじめました。時系列では、いまリバイス中の別の論文で視覚機能の評価のために階層モデルを用いて、stanを使ったMCMCサンプリングでパラメータ推定を行ったのが最初なんですが、この休眠論文はそれに続いてベイズ統計モデルを用いた論文です。具体的にはFig 3で用いている休眠の判定で、代謝のベースラインの推定に2次トレンドモデル(2階差分のトレンド項を有する状態空間モデル)を用いています。また、哺乳類の体温制御モデルのパラメーター推定に、こちらは単回帰問題ではありますが、stanを用いたMCMCサンプリングを用いています。このモデリングおよび解析を行うために、そして英語の表記法なども含めて次の書籍を大いに参考にしました。わかりやすくユーモアに富んだ作品で、最後まで飽きずに読み通せました。本当に感謝です。また、McElreath氏の講義の動画もあります:  http://xcelab.net/rm/statistical-rethinking/

Richard McElreath (著)
Statistical Rethinking: A Bayesian Course with Examples in R and Stan
(Chapman & Hall/CRC Texts in Statistical Science) (英語) ハードカバー – 2016/2/19

812月/150

新たな冬眠霊長類がみつかる

Posted by genshiro

2015年12月3日に発表された次の論文を紹介します。

Scientific Reports 5, Article number: 17392 (2015)
doi:10.1038/srep17392
Hibernation in the pygmy slow loris (Nycticebus pygmaeus): multiday torpor in primates is not restricted to Madagascar
Thomas Ruf, Ulrike Streicher, Gabrielle L. Stalder, Tilo Nadler & Chris Walzer.

要点は

  • マダガスカル島以外の地域で冬眠するサルが見つかった。
  • 北ベトナムに生息するピグミー・スロー・ロリスといわれる霊長類。
  • 冬期に最長で63時間の低代謝状態を維持していることが確認された。
Pygmy slow loris

ピグミースローロリス (Pygmy slow loris)

冬眠(hibernation)とは恒温動物が何日間も能動的に代謝を下げることをいいます。結果的に体温が外気温よりも数度しか変わらない低体温状態になります。2004年にDausmannらによって世界で初めて冬眠する霊長類がみつかりました (Dausmann, Nature, 2004)。僕はこの論文に出会って、冬眠の臨床応用を目指すことにしたわけですが、今回、Rufらによってマダガスカル島のキツネザル以外の霊長類で初めて冬眠する存在が報告されたのです。

Rufらは北ベトナムに生息するピグミー・スロー・ロリスという300g前後の小型の霊長類を実験に用いました。6匹のロリスに体温モニターを装着し、外気とつながっている3 m*1.5 m*2 mのかごで約2年間モニターしました。すると、冬期に入ると図にあるように数日間にわたって体温が著しく低下する低代謝状態の出現が認められました。冬眠です。おもしろいのは、このかごの中には食料と水は一年中用意してあったことです。食べ物があっても、彼らは冬眠することを選んだわけです。

体温と外気温の推移

黒線が体温、青線が外気温をあらわす。数日間にわたって外気温よりも数度だけ高い状態をきたしているとがわかる。http://www.nature.com/articles/srep17392 より。

冬眠というと冬の間、眠りっぱなしの印象があるかもしれませんが、リスやヤマネなどの古典的な冬眠動物(と論文で表現されていますが)も冬眠期間中は約2週間に1回は復温(=37度前後に体温が上がること)することが知られています。今回のロリスたちは古典的な冬眠動物と比べると低代謝状態の期間が数日間とやや短いですが、低代謝状態と37度状態を交互に繰り返すという点において類似しているといえます。

今回の発見によって、マダガスカル島の固有な環境にあるサルだけが冬眠を行うのではなく、小型の霊長類ではより多くの種で冬眠が行われている可能性がでてきました。ヒトの冬眠まではまだまだ道のりがありますが、悪いニュースではありませんね。

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77月/110

クマだって冬眠してるもん。

Posted by genshiro

2011年に発表された次の論文を紹介します。

Science. 2011 Feb 18;331(6019):906-9.
Hibernation in black bears: independence of metabolic suppression from body temperature.
Tøien Ø, Blake J, Edgar DM, Grahn DA, Heller HC, Barnes BM.

要点は

  • 冬眠中のクマ(アメリカグマ; Ursus americanus)の体温酸素消費量を計測した。
  • 冬眠中のクマの体温は30°C程度の低下しかしないが、代謝は基礎代謝の25%程度まで低下しており、温度の低下による代謝低下だけでは説明ができないため、クマは能動的に代謝を下げている(=代謝抑制; metabolic suppression)
  • 冬眠から覚醒して3週間程度は基礎代謝の半分程度(!)の代謝で活動している。

冬眠(hibernation)とは恒温動物が長期間にわたって能動的に代謝をさげることをいいます。多くの冬眠動物は冬期1に数カ月にわたって低代謝状態が続き、動かなくなり2、この間の体温は環境温よりもほんの少し高い程度で、中には氷点下まで下がってしまう動物もいます。クマも冬眠っぽい行動を取ることは知られていましたが、体温がせいぜい30度程度までしか下がらず、本当に冬眠なのか?という疑問がもたれていました。今回、Tøien、Barnesらによってクマだって冬眠してるもんという証拠が初めて世に示されたのです。

冬眠中の動物の代謝は酸素消費量で間接的に計測されます。温度が低下すると全ての化学反応の速度は低下しますが、冬眠中の動物は体温が低下しているため、低下した温度の分だけ化学反応が遅くなり酸素消費量が低下します。ところが、冬眠中の動物の多くは温度低下に伴う代謝低下に加えてさらなる酸素消費量の低下を認めるのです。すなわち、実際に必要としている代謝、言い換えると生体を維持するのに必要なエネルギー量を何かしらの方法で減らしているのです。冬眠中に体温があまり低下しないクマは能動的な代謝抑制すなわち必要なエネルギーが低下しているかが大きな謎でした。単純に体温が落ちて代謝が落ちているだけではないのか3、疑われていたのです。

今回の論文で冬眠中のクマにおいても体温の低下だけでは説明ができない酸素消費量の低下が確認されました。つまり、体温が下がって受動的に代謝が落ちているだけではなく、エネルギーのneedsもさがっているのだ、ということがはっきりしたわけです。実はこのことは冬眠を臨床応用する際には非常に大きなポイントになってきます。

現在、行われている「低体温療法」(頭部外傷の治療など)は純粋に化学反応を遅くしているだけですが、理想的には組織や細胞が必要とする酸素消費量を安全に下げる「低代謝療法」が目的です。冬眠の能動的な低代謝機構が臨床的に注目を浴びているのは、動物が(まさに今回のクマが行っているように)体が必要としているエネルギー量を低下させており、冬眠期間が終わると何事もなかったかのように恒温状態にもどるからです。

また、今回のクマ冬眠の報告は、実はヒトより大きな動物で能動的に代謝を落としていることを示した初めての例だと思います。ヒトで冬眠ができない理由として、すくなくとも体重が重いことはいいわけにできないことが示されたと言えるでしょう。個人的には冬眠の臨床応用を考える上で勇気の湧いてくる論文となりました。

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  1. 実は「冬」眠というものの夏に同様の状態になる生物も確認されています。
  2. 全く動かないわけではありません。たとえば心臓は動いていますし、呼吸も行います。ただし、どちらの機能も著しく低下しています。というより必要なエネルギーが非冬眠時と比べて少ないというほうが正しい。
  3. それはそれですごいことなのですが。