新たな冬眠霊長類がみつかる

2015年12月3日に発表された次の論文を紹介します。

Scientific Reports 5, Article number: 17392 (2015)
doi:10.1038/srep17392
Hibernation in the pygmy slow loris (Nycticebus pygmaeus): multiday torpor in primates is not restricted to Madagascar
Thomas Ruf, Ulrike Streicher, Gabrielle L. Stalder, Tilo Nadler & Chris Walzer.

要点は

  • マダガスカル島以外の地域で冬眠するサルが見つかった。
  • 北ベトナムに生息するピグミー・スロー・ロリスといわれる霊長類。
  • 冬期に最長で63時間の低代謝状態を維持していることが確認された。
Pygmy slow loris
ピグミースローロリス (Pygmy slow loris)

冬眠(hibernation)とは恒温動物が何日間も能動的に代謝を下げることをいいます。結果的に体温が外気温よりも数度しか変わらない低体温状態になります。2004年にDausmannらによって世界で初めて冬眠する霊長類がみつかりました (Dausmann, Nature, 2004)。僕はこの論文に出会って、冬眠の臨床応用を目指すことにしたわけですが、今回、Rufらによってマダガスカル島のキツネザル以外の霊長類で初めて冬眠する存在が報告されたのです。

Rufらは北ベトナムに生息するピグミー・スロー・ロリスという300g前後の小型の霊長類を実験に用いました。6匹のロリスに体温モニターを装着し、外気とつながっている3 m*1.5 m*2 mのかごで約2年間モニターしました。すると、冬期に入ると図にあるように数日間にわたって体温が著しく低下する低代謝状態の出現が認められました。冬眠です。おもしろいのは、このかごの中には食料と水は一年中用意してあったことです。食べ物があっても、彼らは冬眠することを選んだわけです。

体温と外気温の推移
黒線が体温、青線が外気温をあらわす。数日間にわたって外気温よりも数度だけ高い状態をきたしているとがわかる。http://www.nature.com/articles/srep17392 より。

冬眠というと冬の間、眠りっぱなしの印象があるかもしれませんが、リスやヤマネなどの古典的な冬眠動物(と論文で表現されていますが)も冬眠期間中は約2週間に1回は復温(=37度前後に体温が上がること)することが知られています。今回のロリスたちは古典的な冬眠動物と比べると低代謝状態の期間が数日間とやや短いですが、低代謝状態と37度状態を交互に繰り返すという点において類似しているといえます。

今回の発見によって、マダガスカル島の固有な環境にあるサルだけが冬眠を行うのではなく、小型の霊長類ではより多くの種で冬眠が行われている可能性がでてきました。ヒトの冬眠まではまだまだ道のりがありますが、悪いニュースではありませんね。

genshiro

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