マウスを冬眠様状態に

本日、冬眠しない動物を冬眠様状態にできたという新しい論文がNatureに掲載されました。この研究は筑波大学の櫻井武先生(@TakeshiSakurai)と彼の優秀な学生、高橋徹さんと一緒に行いました。

マウスの脳内にQニューロンという新しい神経群を同定しました。Qニューロンは興奮すると動物を冬眠のような状態にすることができます。これをQIH(Q neurons-induced hypometabolism)とよんでいます。

QIH状態のマウス(左下)と普通の状態のマウス(右上)

QIHは低体温かつ低酸素消費を数日間維持することができますが、動物の組織に損傷を与えることなく、元気にもどってきます。また、本研究は冬眠以外で動物の体温の設定温度を下げることができることを示した初めての研究であると考えています。QIH中は動物は体温を30℃以下に保とうとします。

QニューロンはQrfpというペプチドを発現している神経を高橋徹さんが調べているときに偶然発見したものです。QIHは確かにQニューロンを興奮させると生じるのですが、面白いことにQrfpがなくてもQIHは生じます。つまり、Qrfpは単なるマーカー(目印)であってプレーヤーではありません。この冬眠様状態のプレイヤーが誰なのか、あるいはそのマネージャーが誰なのかを調べる必要があります。

約15年前に私が科学者としてのキャリアをスタートさせたのは、人間の冬眠が私たちの生活をより良いものにしてくれると確信したからです。SF映画のように人工冬眠で人類は深宇宙に行けるかもしれませんし、未来に行けるかもしれません。しかし、人工冬眠が最も有効活用できる点は医療だと思っています。時間とともに予後が悪くなる患者を人工冬眠によって時間を稼ぐことで救うことができると思います。私たちの成果が人工冬眠の研究開発を前進させてくれることを願ってやみません。

何よりも、このような致死的な低代謝状態に動物がどのようにして長期間耐えられるのかわかっていません。今後、私のグループでは臓器などの末梢組織で細胞レベルで低代謝耐性・低温耐性がどのように実現しているかという研究を進めていきます。そして、1日でもはやく人間の冬眠を実現したいと思います。多くの謎が待ち受けていますが、唯一はっきりしていることは、多くの驚きも待っているだろうということです。人工冬眠の研究開発に興味がある方はぜひご一報ください!

論文情報

A discrete neuronal circuit induces a hibernation-like state in rodents
(マウス齧歯類を冬眠様状態に誘導できる新規神経回路の発見)
Tohru M. Takahashi, Genshiro A. Sunagawa*, Shingo Soya, Manabu Abe, Katsuyasu Sakurai, Kiyomi Ishikawa, Masashi Yanagisawa, Hiroshi Hama, Emi Hasegawa, Atsushi Miyawaki, Kenji Sakimura, Masayo Takahashi, Takeshi Sakurai*
(* Co-corresponding authors)
Nature, 2020, doi: 10.1038/s41586-020-2163-6

genshiro

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